デジャヴュ――『盤上の人生 盤外の勝負』『升田幸三の孤独』『最後の握手ー昭和を創った15人のプロ棋士ー』(2)

「それにしても、今は羽生、佐藤、森内世代の活躍で、霞んでしもてるけど、〈昭和五十五年組〉の活躍は、見てる分には凄かったで」
 
Nやんは、煙草に火を点けながら、言った。

「昭和60年に、B級2組の中村修六段が、王将戦で、時の名人、中原誠を破っとる」

「おんなじ60年には、高橋道雄が、加藤一二三に奪われた王位を奪い返し、翌61年にも米長邦雄とやって、四連勝と完璧に叩いて、王位を防衛しとるやろ」

「ほんで62年には南芳一が、桐山清澄に三連勝して、棋聖になる」

「おんなじ年には塚田泰明も、中原誠を三勝二敗で破り、王座に着いとる」

「翌年には島朗が、米長邦雄に四連勝し、初代の竜王になったんや」

「このときは、二日制タイトルの一日目の夜に、島が女の子とプールへ行ったいうんで、米長が怒ってしもて、負けたんや」

「せやったなあ。しかしあれは、米長を怒らせるために、言うたんやと思うな」
 
Nやんは往時を懐かしんで、ちょっと遠い目をした。

「せやけどわいは、大山や升田いう王道やのうて、脇役の個性派が好きなんや。たとえば花村元司や」

「賭け将棋からプロになった、〈東海の鬼〉やね。俺が覚えてるのは、花村が60歳で、A級に復帰したときや。確か米長が相手のときに、中央でぶっかった駒が、花村の分だけ、退却を始めたんや。谷川の言葉に、『前進できない駒はない』ちゅうのがあるけど、その逆や」

「それで、どうなったんや」

「指し手はまるで忘れたけど、花村が勝って、米長が負けた」

「どんどん退却して、結果は退却した方の勝ちか」

「こんなことも、藤井登場以後には、見られんやろな。少なくとも、話題になることはないやろ」

「そういえば、昔は、ときに『待った』しても、よかったんやね」

「ええっ!」

「そこを読むよ。
『終盤では萩原〔淳八段〕必勝となっていた。そこで萩原があきらかに悪手とわかる手を指した。オヤ?という顔で加藤〔一二三〕が考えでいると、「こんなアホな手はないよな」の呟きとともに萩原の手が伸び、打った駒をはがし、別の手を指した。待った、をしたのである。
 加藤はちょっとふくれたが、そのまま指しつづけ、萩原快勝となった。
 今でも、その場面が浮かぶが、鷹揚な時代だったと懐かしくなる』(『升田幸三の孤独』)
これが順位戦の、勝てば昇級という最終戦やから、びっくりするやろ」

「鷹揚な時代どころやないで、無茶苦茶やな」
posted by 中嶋 廣 at 19:03Comment(0)日記