デジャヴュ――『盤上の人生 盤外の勝負』『升田幸三の孤独』『最後の握手ー昭和を創った15人のプロ棋士ー』(1)

雨が上がった昼下がり、久しぶりにNやんが来た。河口俊彦の懐かしい将棋本を、何冊か持っている。

「今年のNHK杯、見てるか」

「うん。そんなに熱心にではないけども。しかしここへきて、急に盛り上がってきたな」

「何しろ最後に残ったのが、超ベテランの棋士ばかりやからなあ」

「準決勝が羽生善治と丸山忠久、森内俊之と郷田真隆というのは、今から二十年前の組み合わせやね。この人たちは全員、NHK杯で優勝したことが、あるんちゃうか」

「そうなんよ。準決勝の組み合わせだけ見てると、ふた昔前のテレビ欄を見てるようで、頭がくらくらするで」

「やっぱり藤井聡太七段が現われて、景色が一変するから、その前に、これまでの将棋の歴史をパノラマで見せよ、と神様が考えたわけやね」

「そうやねん。せやから、河口俊彦〈老子〉の本を、まとめて読んでるちゅうわけや」

「これからは、河口俊彦の描いた、そういう機微はなくなるね」

「やっぱり藤井というのは、それだけ別格の強さがあるんやなあ」

「将棋というジャンルそのものを、変えてしもたからねえ。大山十五世名人の言う、人間は必ず失敗する生き者や、というのもきっと、昔懐かしい語り草になるに違いないで」

「しかしその大山やけど、『十六年間、タイトルを奪われた次の期には必ず挑戦者になり、遅くとも二年目にはタイトルを再び自分のものとしている』(『盤上の人生 盤外の勝負』)というんやから、やっぱりすごいよ」

「大山名人は、ガンになったときも、一年後に順位戦に復帰して、びっくりしたことには、勝ち抜いて挑戦者になってる。このときが、なんと62歳や。まあさすがに名人戦では、中原に敗れたけどな」

「将棋の歴史も考えてみれば、いろいろあったな。大山、升田、中原、米長、加藤、いうのが、最初の将棋界隆盛のころで、あとは中村修、高橋道雄、南芳一、塚田泰明、島朗の、〈昭和五十五年組〉が猛威を振るうた」

「しかし〈昭和五十五年組〉は、急速に勝てんようになったね」

「まあ谷川浩司と、そのあと出てきた羽生善治、佐藤康光、森内俊之、郷田真隆あたりに蹴散らされたからね」

「すると今は、本当に群雄割拠やねえ」
posted by 中嶋 廣 at 17:07Comment(0)日記