ポハピピンポボピア星の方へ――『地球星人』(1)

村田沙耶香の出世作『コンビニ人間』は、人間の設定は面白いけれど、始まりと終わりで、話がまったく転がらないので、がっかりした覚えがある。
 
文章に、厚みも含みもなくて、ただ物語を物語るだけというもので、この作家は二度と読むまいと思ったが、こんどの『地球星人』は、あちこちで話を聞くので、つい手に取った。
 
結論から言うと、大変面白い。
 
主人公の「奈月」の子供のときを描き、そして突然、三十歳を超えてからを描いていくので、いやが応でも縦軸が通る。
 
文章は例によって、この人の距離感で書かれていて、通常の感覚ではない。情緒欠乏症というか、発達障害もどきというか。
 
でも、こんなところもある。

「……耳がきんとして、自分がどんどん空に近付いているのを感じる。おばあちゃんの家は、宇宙に近い。」
 
この「宇宙に近い」の、突拍子もない、しかし奇妙にそこに収まっているリアルさは、読む者を圧倒する、というかドキッとする。
 
主人公は夏休みに、祖父母の田舎の家で、「由宇(ゆう)」という男の子と、秘密を持つ。
 
奈月は「コンパクトで変身して、ステッキで魔法が使える」が、なぜそんなことが必要かというと、「この世界にはたくさんの敵がいるの。悪い魔女とか、バケモノとか。私はいつもそれをやっつけて、地球を守ってるの」ということなのだ。
 
それに対して由宇は、僕は宇宙人ではないかという。

「すごい。じゃあ私たち、魔法少女と宇宙人だったんだね」
「いや、僕は、奈月ちゃんみたいにきちんとした証拠があるわけじゃないから……」
「きっとそうだよ。由宇の故郷って、ポハピピンポボピア星なんじゃないかなあ。それだったらすごい! ピュートと同じ星からきたんだよ!」
 
文章に不気味な影を忍ばせてはいるが、これだけだったら、子どもの空想ですむ。
 
しかし小学生の二人は、このあと夫婦の真似ごとをし、夜中に外で性交ごっこをする。といっても男の子には、精通が来ていないから、あくまでもごっこなのだが、それを見つけた大人たちは、驚いて二人を離れさせ、三十歳を過ぎるときまで、会えなくするのだ。
 
そういう小説らしい筋立てを背景に、奈月の独特の世界観が示される。

「私は、人間を作る工場の中で暮らしている。
 私が住む街には、ぎっしりと人間の巣が並んでいる。
 ……
 ずらりと整列した四角い巣の中に、つがいになった人間のオスとメスと、その子供がいる。つがいは巣の中で子供を育てている。私はその巣の中の一つに住んでいる。
 ここは、肉体で繫がった人間工場だ。私たち子供はいつかこの工場をでて、出荷されていく。」
 
これはおそらく、著者の世界観でもあるのだろう。
posted by 中嶋 廣 at 09:05Comment(0)日記