にわかには信じられない――『不死身の特攻兵―軍神はなぜ上官に反抗したか―』(2)

次の言葉は『万朶隊』隊長、岩本大尉のものである。

「操縦者も飛行機も足りないという時に、特攻だといって、一度だけの攻撃でおしまいというのは、余計に損耗を大きくすることだ。要は、爆弾を命中させることで、体当たりで死ぬことが目的ではない。……
 体当たり機は、操縦者を無駄に殺すだけではない。体当たりで、撃沈できる公算は少ないのだ。こんな飛行機や戦術を考えたやつは、航空本部か参謀本部か知らんが、航空の実際を知らないか、よくよく思慮の足らんやつだ。」
 
これを聞いた佐々木友次さんは、身体中が熱くなり、そしてつかえていた迷いがなくなった。爆弾を落として、帰ってくればいいのだ。
 
それにしても、この岩本隊長の話は、明らかに命令違反であり、軍隊では死刑に値する話だった。
 
最前線の特攻隊の中で、このような発言が、隊の中だけとはいえ、聞かれたのだ。『きけわだつみのこえ』だけではない、もう一つ別の、なまの声、それを是非とも聞かなければならない。
 
三度の特攻隊で帰還した佐々木さんは、四度目の出撃のとき、猿渡参謀長からきつく注意を受けた。

「佐々木伍長は、ただ敵艦を撃沈すればよいと考えているが、それは考え違いである。爆撃で敵艦を沈めることは困難だから、体当たりをするのだ。……今度の攻撃には、必ず体当たりで確実に戦果を上げてもらいたい」。
 
これに対する佐々木さんの答えはこうだ。

「私は必中攻撃でも死ななくてもいいと思います。その代わり、死ぬまで何度でも行って、爆弾を命中させます」。
 
こんなふうに、自分の意見を言うこともできたんだ。これがどのくらい、例外的なことかはわからない。しかしとにかく、ここでは佐々木さんは、自分の意見を述べている。
 
それに対する猿渡参謀長の答えはこうだ。

「佐々木の考えは分かるが、軍の責任ということがある。今度は必ず死んでもらう。……」。
 
しかし佐々木さんは納得しなかった。

「『佐々木伍長、出発します』それだけ言って、その場を離れた。」
 
佐々木さんを死なせるについては、これは軍として、絶対に守らなければならなかった。何しろ天皇に「上聞」した以上、生きていては困るのだ。
 
このあたりは、もう軍は十分に気が狂っている。いまでも官僚は、こういう気の狂い方をする。当時はなにしろ、日本中を「オウム」が覆っていたのだ。

『きけわだつみのこえ』は、時代を覆う「オウム」に、なんとか特攻兵の思索を、ギリギリのところで、合わせようとしたものだ。だから読んでいて、どうにもたまらなくなるのだ。
posted by 中嶋 廣 at 19:44Comment(0)日記