悪戦苦闘の日々――『脳は回復する―高次脳機能障害からの脱出―』(1)

鈴木大介による、『脳が壊れた』の続編である。
 
医療保険による回復期のリハビリは、脳出血・脳梗塞の場合は、病院にいられる期間は、最大半年と定められている。
 
そこを退院してから、社会復帰しようとする直前までの、ほとんど奥さんだけが頼りという、悪戦苦闘の日々を描く。
 
章見出しの「号泣とパニックの日々」、「夜泣き、口パク、イライラの日々」、「『話せない』日々」といったあたりで、その苦闘ぶりがよくわかるだろう。
 
とにかく鈴木は、よほど用心しないと、突然ぶあっと、涙が溢れてくる。一日中、用心しながら生活していると、夜にはフラフラになる。
 
著者はこれを、「四六時中号泣寸前」の状態といっている。著者には悪いが、なんというか、表現が面白い。
 
困ったのは、耳や目に入ってくる情報を、取捨できないことだ。

これは、僕も似たようなことがあって困った。病院の待合室で、人と話していて、関係のないいろんな人が、僕をめがけて、言葉で襲いかかってくる。もちろんそんなことはないのだが、しかし僕自身は、パニックに陥った。

著者の場合は、さらに厳しい。

「僕の場合は注意障害の結果『注意する必要がない情報』に注意が向き、しかもそれを自力でキャンセルできない状況にもなってしまっていた。
 ……
 テレビを見ながら食事をすると、テレビばかりに注目(凝視)して、本来払うべき『一度箸に取った食べ物』への注意がおろそかになる子どもと同じだ。結果としてそんな子どもは箸から食べ物を落としてしまったり口から食べ物をこぼしたりする(ちなみにこれは注意障害もちの我が妻の日常風景)。」
 
これはけっこう大変だ、夫婦で強度の注意障害もちとは。
 
なお二年半余りの闘病を経て、著者に最後に残った障害は、上手く話せないことである。これは僕も全く同じである。

「話しづらさに苦しんでいた僕は、あらゆる会話の中でも『納得していない相手に説明・説得する会話』を最も苦手としていて、いくつもの挫折を繰り返した。」
 
鈴木大介の場合は、現役の執筆者に、復帰しなければいけなかったのだから、大変である。著者と編集者が丁々発止、やりあうところが、この仕事の醍醐味である。それができなくなる。
 
だから僕の場合は、その仕事を降りたのだ。
posted by 中嶋 廣 at 19:05Comment(0)日記