冷静に、ひたすら冷静に読む――『Black Box ブラックボックス』(2)

その前に、タイトルについて述べておこう。『ブラックボックス』は、密室の中で起こったことは、第三者には分からないということ、つまりこれは「藪の中」を指す言葉だ。

これは著者の言葉ではなく、検事がこの事件のことを指して、呼んでいたのだという。

事件が起こったとき、どこにも相談することができない、というのが、この本を書いた最初の動機だ。心身に最大のダメージを受けているとき、自力で適切な病院を、探さなければいけないのは、じつに困難なことだ。

ネットで、性暴力の被害者を支援するNPOを見つけて、電話したけれど、とにかく一度出かけてこなければ、相談に応じないと言われて、そのときの著者には、気力が残っていなかった。

「そうしている間にも、証拠保全に必要な血液検査やDNA採取を行える大事な時間は、どんどん過ぎ去っていた。当時の私には、想像もできなかった。この事実をどこかで知っていたら、と後悔している。」
 
だから、他の女性のために、いや女性のためとは限らないわけで、この本を書いている。

「電話での問い合わせに対し、簡単な対処法さえ教えないのは、今考えても納得できない。公的な機関による啓蒙サイトを作り、検索の上位に上るようにするだけでも、救われる人はいるのではないか。」
 
これが著者の、最も訴えたいことなのだ。
 
と同時に、顔見知りにレイプされても、それを認めたくないという、独特の心理の陥穽も経験している。

「この時点では、強制的に性行為が行われていたことはわかっていても、それがレイプだったと認識することができなかった。普通に考えればそうだったのだが、この時の私はどこかで、レイプとは見知らぬ人に突然襲われるものだと思っていたのだろう。そしてどこかで、レイプという被害を受けたことを、認めたくなかったのだと思う。」
 
これは一般に言われることだが、教育によって、変えていくしかないのだろう。

「デートレイプドラッグ」については、著者と山口氏とで、もっとも主張が割れるところだ。そして著者は、デートレイプドラッグが用いられたということを、確信している。

「インターネットでアメリカのサイトを検索してみると、デートレイプドラッグを入れられた場合に起きる記憶障害や吐き気の症状は、自分の身に起きたことと、驚くほど一致していた。」
 
もしかりに、デートレイプドラッグを疑ったとしても、それは一回の使用で、すぐに体内から出てしまう。そうすると、本当はどうすればよかったのか。

「私は『とにかく、早くその場から離れたくて飛び出してしまったけれど、ホテルから110番すべきだった』と後悔した。」
 
それはそうかもしれない。しかし、「レイプ慣れ」した人ならともかく、そんなふうに、冷静に処理するのが無理なことは、言うまでもないと思うが、どうか。
posted by 中嶋 廣 at 17:16Comment(0)日記