どういうふうに考えたらよいのか――『黙殺―報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い―』(1)

これは、とびきり面白い。しかし、とびきり面白いだけだ、とも言える。ウーン、なんとも難しい。
 
これは新聞やテレビなど、マスメディアからは徹底的に「黙殺」された候補者たちを追った本だ。とにかく、最初はワクワク、ドキドキさせる。

「世間の人たちは、彼・彼女らを侮蔑のニュアンスを含めて『泡沫候補』と呼ぶ。だが、私はこの呼称には到底納得できない。だから、私は敬意を込めて『無頼系独立候補』と呼んでいる。」
 
たとえば先の東京都知事選挙で、民放テレビ四社のニュースが、各候補者に割いた割合は、主要三候補(小池百合子、増田寛也、鳥越俊太郎)対その他十八候補では、97%対3%である。これでは、あまりに不公平ではないか。
 
そこで、フリーランスライターである著者は、すべての立候補者に接触し、彼らの活動や政策を、一人でも多くの人に伝えたいと思う。

どうして、そんなことをするのか。
「それは、すべての候補者が同額の、決して安くはない供託金を支払い、対等な立場で立候補しているからだ。」
なるほど、これはもっともだ。

しかも、「多様な選択肢」を、あらかじめ捨ててしまうことは、社会にとってもったいないことではないか。うーむ、じつに堂々たる意見ではないか。
 
で、まず最初は、「第一章 マック赤坂という男」。しかしここで、最初から腰砕けになる。

「その声の発信源が着ているコスチュームは、選挙の立候補者としては常識外の、エアロビクスのインストラクターそのものだ。視覚情報が邪魔してなのか、話がすっと心に入ってこない。どうしても奇抜なファッションが気になる。」
 
著者が、マック赤坂を真面目に考えるのが、難しいというのに、読者はどんな顔をすればよいのか。いや、まあ、面白いですけどね。

「マックは通り過ぎる人々に向かってどんどん声をかけた。声をかけられたほうはびっくりしてマイクの主を見上げるが、誰もが『見てはいけないものを見てしまった』という顔をして足を速めた。・・・・・・男性に逃げられると、今度は女性に、
『そこの若いあなた! どういう男性がタイプですか』
 と声をかけはじめた。もちろん女性も逃げた。」
 
マック赤坂は、最初の選挙で、ごくあたりまえに政見放送をやって、惨敗した。そこで戦略を練り直し、選挙運動を先鋭化させていく。「メディアに取り上げられなければ票は取れない」からだ。
 
しかし結局、票は取れないんだから、同じことではないのかな、と僕なんかは思う。
 
マック赤坂の政策は、たとえば次のようなものだ。
「『東京を恋愛特区にする』
『高齢者も恋愛を』
『眉間にシワで東京都の街角を歩いたら3万円の罰金』
・・・・・・この政策を読んだだけでも心が和み、幸せな気持ちにならないだろうか。」
 
ならない。
posted by 中嶋 廣 at 19:00Comment(0)日記

一装丁家の意見――『装丁、あれこれ』(4)

またこういう話もある。かつて大月書店で、十冊ほど、本作りを一緒にやったことのある、西浩孝さんのことだ。
 
西さんは、WEBRONZAの書評サイト「神保町の匠」で、僕ともずっと一緒にやっている。

事情があって、西さんは、大月書店を辞めて、長崎に転居された。「神保町の匠」は、インターネットがあれば、どこでもできるから、書評はずっと続けておられる。
 
それは別に、どうということはない。驚いたのは、そこから先の話だ。

「長崎に居を移し『どうしていらっしゃるか』と思っていた矢先、『編集室水平線』の名で編集・製作した近刊二冊をお送りいただいた。装丁も西さん手ずから。
 内容は、ハンセン病療養所入所者の文学作品に光を当て、また世に問うた詩人・大江満雄の生と思想を中心に編まれた評伝と評論集だ。」
 
これまでは、東京の出版社を辞め、地方で暮らすということは、つまり出版を諦めるということだった。少なくとも、これまではそうだった。
 
しかし西さんの本は、ちゃんとISBNコードも入れ、数が少ないとはいえ、書店に配本もしている。
 
肝心の本作りは、ぱっと開いてみれば、西さん特有の緊密な組版が、ビリビリした緊張感を、如実に伝えてくる。
 
もしこれで、評判になるものを出せれば、東京でなくとも、そしていわゆる株式会社でなくとも、本は作れることになる。そこには、一条の光が見えてくる。
 
新聞に載っている、大手の出版社の広告が、見るも無残な抜け殻ばかり並べているときに、自分はこれをやりたいんだ、これに価値があると思うんだ、とストレートに言えれば、そこから出版は変わっていく。ここからの出版は、それ以外に道はない。
 
僕は、西さんが一人で、長崎で仕事を再開したことに感銘を受けた、という桂川さんにも、感動してしまった。
 
ほかにも、佐藤正午の『月の満ち欠け』を装丁するときの、悪戦苦闘ぶりなど、読ませどころはどっさりある。
 
装丁を、外からではなく内側から、しかも広く見渡している、珍しい本だ。あまり書店に置いていないと思うので、強く推薦したい。

(『装丁、あれこれ』桂川潤、彩流社、2018年1月30日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 18:14Comment(0)日記