歴史というよりは冒険活劇――『昭和解体―国鉄分割・民営化30年目の真実―』

著者の牧久は昭和16年生まれ、元日本経済新聞社会部に所属、サイゴン・シンガポール特派員なども経験している。
 
最初に言っておくと、この本は、僕には、まったく面白くなかった。最初から、読みかけるのだが、すぐに眠くなる。いかん、いかん、と顔を洗って出直すが、また眠くなる。
 
しょうがないので、初めのところから、朗読に切り替えた。高次脳機能障害のリハビリ用である。四六判で500ページ余、これだけを朗読する忍耐力が身につけば、脳機能障害も、六、七割は戻ったと言えるのではないか。

という冗談はさておき、とにかく『昭和解体』はいくらなんでも、ハッタリが過ぎる。「昭和解体」ではなくて「国鉄解体」、もっといえば「組合解体」、さらに言えば「国労解体」であろう。

国鉄の分社化と民営化は、そもそも25兆円を超える借金を、清算することにあった。そして人員を整理して、経営改善をすることが目的だった。しかしそれは、オモテ向きにすぎない。

「そのウラでは、戦後GHQの民主化政策のもとで生まれた労働組合、中でも最大の『国鉄労働組合』(国労)と、同労組が中核をなす全国組織『日本労働組合総評議会』(総評)、そしてその総評を支持母体とする左派政党・社会党の解体を企図した、戦後最大級の政治経済事件でもあった。」
 
終始こういう文体で綴られるから、隔靴搔痒、もうひとつ芯に迫ってゆかない。まあ、日経新聞の文体で、全篇書き下ろされている、といったらいいですかね。
 
そもそも国労は、「親方日の丸意識」でどうにもならない、ということが前提である。
「これを打破し鉄道再生を図ろうと、井出正敬、松田昌士、葛西敬之の、『三人組』と呼ばれる若手キャリアを中心にした改革派が立ち上がり、『国鉄解体』に向けて走り出す。その奔流は、国鉄問題を政策の目玉に据えた『時の政権』中曽根康弘内閣と、『財界総理』土光敏夫率いる第二臨調の行財政改革という太い地下水脈と合流し、日本の戦後政治・経済体制を一変させる大河となった。」
 
時の権力と財界をバックに、「三人組」が立ち上がり、さしもの「国労」帝国も崩れ去った。そういう「活劇」では、本当の歴史には迫れないんじゃないか。

どうしてこういう本に手が伸びたかというと、僕はトランスビューにいるころ、菊地史彦さんの『「幸せ」の戦後史』と『「若者」の時代』という二冊を作った(正確には脳出血の発作で、『「若者」の時代』は装幀の入稿を人に任せたが、しかし『「幸せ」の戦後史』の続編というか、対になるもので、装幀の菊地信義氏は、よく分かっていたと思う)。

この『「幸せ」の戦後史』と『「若者」の時代』は、じつはもう一冊を加えて、三部作で完成させる予定なのだ。
 
それで「昭和」と名のつく本は、必然的に手が伸びる。『昭和解体』なんて、もっとも手が伸びやすいタイトルだ。だから読み終えて、ちょっとほっとしたというか、あまりにスカタンというか・・・・・・。
 
とにかくいまは、菊地史彦さんの原稿を、緊張して、じっと待っている。

(『昭和解体―国鉄分割・民営化30年目の真実―』
 牧久、講談社、2017年3月15日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 12:50Comment(0)日記