これは、編集者のNさんが送ってくれた。いまふうの文芸ものばかり読んで、いい加減な感想を述べてないで、たまには骨のあるものを読んで書評してみなさい、ということだと思う。
でもこれを読んでいるとき、金正男(と思われる男)の暗殺が起こった。そしてまた北朝鮮は、ミサイル4発を打ち上げた。そういうことを見たり聞いたりしていると、テレビや新聞と、この本との乖離は、凄まじいと思う。
それはともかく、まず読んでみよう。この本は、坂井隆・平岩俊司の対談本である。
「大量破壊兵器の存在を疑われ実際に持っていなかったイラクのフセイン、核を放棄したリビアのカダフィの事例から、体制を維持するためには絶対核兵器を持たなければならない、北朝鮮指導部はそう確信したのだと思います。」(平岩)
「北朝鮮にしてみれば」というのが、二人の対談者の基本姿勢で、考えてみれば、これは当たり前の姿勢だが、しかし北朝鮮の立場に立ってみる、というのは新鮮で珍しい。
坂井隆氏は、元公安調査庁で北朝鮮を担当、平岩俊司氏は、関西学院大学や南山大学で教鞭を取り、専門はやはり北朝鮮である。
「気を付けなきゃならないのは、あの国を『わけの分からない国だ』とか、『若い指導者が気まぐれで何かやっている』と見ないことです。彼らは彼らなりの目的を持って着実に邁進している。」(平岩)
うーん、そうかなあ。とてもそうは思えないんだけど。
「アメリカや韓国は『これ以上放置したら危ない』という状況が生まれないと交渉に応じてこない。だから北朝鮮の瀬戸際政策もだんだん過激になっていくわけですね。」(坂井)
北朝鮮の立場に立てば、そういう言い方もできるかもしれない。でも逆に無理に緊張を高めるだけで、かえって北朝鮮は面倒だ、そこから北朝鮮危うし、とならないだろうか。トランプがしびれを切らし、面倒だ、核を先制でお見舞いしてやるぞ、とならないだろうか。僕はこの方が、危ないと思うけど、でもわからない。追い詰められた者には、追い詰められた者の、切羽詰まった思いがある、ということだろうか。
「核問題は、『開発』『拡散』『配備』のステージがあるわけです。・・・・・・拡散のところはなんとしても止めなければ、とりわけ中東のテロリストに北朝鮮製の核が渡るというのは悪夢だと。これが1回目の核実験のあとのブッシュ政権の基本的認識だったと言ってよいでしょう。」(平岩)
こういうこともあるんだから、国際政治は本当に分からない。
「冷戦期は東西冷戦の枠組みで自分たちの安全はなんとか維持できていたけれども、冷戦の終焉とともにソ連、中国が韓国と国交正常化してしまい、自分たちだけが一方的にアメリカの脅威にさらされてしまっている、この状況を何とか解消したい、というのが、いまの彼らの理屈なんだと思うんですね。」(平岩)
こういうふうに理路整然としゃべってくれれば、対処の仕様もあると思うんだけども、こちらが、そういうふうに忖度しなければならないということは、北朝鮮の極度に貧しい外交政策のなせる業ではないか(なーんて、ちょっと「専門家」みたいだ)。