どこを切っても山田太一――『月日の残像』(1)

これは荒川洋治の『過去をもつ人』で取り上げられていた本だ。

1回4000字でテーマは自由、季刊『考える人』に9年にわたって連載したものだ。テーマは自由といったって、そこは山田太一、一つのことをいろんな角度から眺め、さらに潜入すれば、外からも内からも陰影を帯びる。その陰影の帯び方が、山田太一らしい。
 
たとえば「下町と山の手」。
「中学の半ばから短い間『二度目の母』という人がいた。分りやすい美人ではないが上背のあるすらりとした人で、私はなによりその人の立居振舞いに、わが家にはない『品のようなもの』があることに気押されていた。」
 
山田太一と二度目の母、「分りやすい美人ではないが上背のあるすらりとした人」。なんだかドラマの一場面のようだ。中学生の山田太一は、なんとか仲良くしていこうと思う。

「しかし、父とうまくいかなかった。
 父は別の世界の女性に魅力を感じたのかもしれないが、同居すれば違いは魅力より不具合が大きくなった。」
 
こうして父と二度目の母との間は、うまくいかなくなった。そのときの山田太一の位置が微妙である。というか山田太一は中学生の頃には、「山田太一」の目を持っていたのである。

「義母は吐け口がなかったのだろう、私を相手にも父を批判した。そのいい分の大半を私はもっともに思ったが、一方でそんな変化を父に求めるのは無理だという気持も湧いて、不可能感に閉ざされた。」
 
この二度目の母は、中学生山田太一の天分を、我しらず見抜いていたのであった。